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2024/07/22
スイスのバーゼルで学び、2004年の帰国以降、ソロ、オーケストラ、室内楽と幅広く活躍するフルートの吉岡次郎さん。今年8月には、長年コンビを組んできた長尾洋史さん(ピアノ)とJ.S.バッハ《6つのトリオ・ソナタ》の全曲演奏に挑む。また、吉岡さんは熊川哲也が芸術監督を務めるK-BALLET TOKYOのパートナー、シアター オーケストラ トウキョウ(TOT)にも所属し、オーケストラ・ピットの中でも活躍中だ。 本インタビューでは、吉岡さんに8月のリサイタルと、TOTの活動について伺った。
——8月に共演される長尾さんとは、初共演からもうすぐ20年ですね。
吉岡はい。2004年にスイスから帰国し、2005年が初共演でした。日本で演奏家として活動していくにあたって、初めてのリサイタルは大変重要ということで、いつか共演してみたいと思っていた長尾洋史さんにお願いしました。それ以降節目のリサイタルや、ソロ・アルバムのレコーディングで何回もご一緒させていただいています。また、長尾さん主催のコンサートにも何回か出演させていただいています。
——今回なぜJ.S.バッハ《6つのトリオ・ソナタ》を選ばれたのでしょうか?
吉岡理由はさまざまあるのですが、なかでも長尾さんのバッハが非常に素晴らしいのでいつか一緒に、と思ってきました。これまでのリサイタルのプログラムの中にもJ.S.バッハの作品はあるのですが、バッハだけのプログラムは未経験でしたし、このオルガン・ソナタは、私の初挑戦なんです。この年齢になっても新しいチャレンジをしたいという意味合いもありますね。 もちろんオルガニストの弾く原曲のオルガン・ソナタがヴァイマール時代、ケーテン時代、ライプツィヒ時代にわたるバッハの音楽の集大成であることの魅力が前提にもなっています。 今回はフルートとオブリガート・チェンバロのためのベーレンライター社から出版されているキルヒナー版を使用します。《6つのトリオ・ソナタ(オルガン・ソナタ)》にはいろいろな編曲があって、フルート2本+通奏低音、ヴァイオリンと他の楽器というような3人で演奏するバージョンや、もっと多くのアンサンブルバージョンの編曲があるのですが、キルヒナー版はフルートとオブリガート・チェンバロの編成になります。 長尾さんはチェンバロもお得意なのですが、今回はモダン・ピアノで弾いてもらおうというのもこだわりの一つです。チェンバロができる表現というものもありますが、モダン・ピアノでしかできない、モダン・フルートでしかできない表現をしたいと思っています。
吉岡それともう一つ、このキルヒナー版を採用した理由がありまして、それは調性の観点から。現存するJ.S.バッハがフルートと通奏低音のため、あるいはオブリガート・チェンバロのために書いたソナタは真作4曲、疑作3曲がありまして、キルヒナー版はバッハの他作品のフルート声部の音域や調性を考慮しつつ、いくつかのソナタの調性を避けて編曲してあります。 私は普段は、移調してある編曲作品を取り上げるのに少し抵抗がありますが、今回はこの考え方が魅力的だと感じました。 理論的に和声にとても詳しいというわけではありませんが、感覚的に調性感をとても大切に考えています。フルートは単旋律楽器ですが、どの調かで、同じ音でも音色や表現を変えなければいけません。もちろん感覚的に皆さんがやっていることだと思いますが、更に理論で裏付けをして、人の心にちゃんと届けたいと思っています。
——トリオ・ソナタ全曲の演奏会ということも魅力的ですが、ピアノとフルートの音色にひたれるリサイタルになりそうですね。楽しみにされている皆さんに向けて、聴きどころを教えてください。
吉岡あまり、キャッチーなことは言えないのですが、なんて言えばいいかな。 リサイタルはやっぱり「こうですよ!」と“聴衆の皆さんに向けて吹く”という姿勢が強いものですが、今回はそれだけではなくて、私と長尾さんが内側に感じている“何か”を見ていただきたい、聴いていただきたいという思いが大きいですね。 これまでは“私が大きく発信して届ける”という発想でしたが、それとは真逆。内側に感じているものを探しに来ていただきたいです。
——吉岡さんはソリストとしての活動のほか、バレエダンサー熊川哲也さん率いるK-BALLET TOKYOの専属オーケストラであるシアター オーケストラ トウキョウ(TOT)にも所属されています。ここからはTOTの活動についてや、バレエのオーケストラの魅力を吉岡さんお聞きしたいと思います。 TOTはバレエ団のオーケストラということですが、シンフォニーオーケストラとバレエ団のオーケストラとでは、演奏していてどのような点が異なりますか?
吉岡基本的には指揮者の要求に応えて吹くということは同じです。しかし、ずっとステージ下のオーケストラピットの中で吹くというのが特殊ですね。フルートに限らずステージ上で演奏するよりは響きが制限されてしまったり、時差が生まれてしまうので、最初のうちは戸惑うことが多いと思います。壁寄りなどの場所によっては耳が使いづらい場所もあるので、実際どう聴こえているかの想像力と、指揮者やまわりの奏者への信頼が大切になります。 そのうえで、指揮者と一緒にステージ上のダンサーを魅力的に見せるのが一番の役割。私たち奏者はダンサーを直接見て合わせることはもちろんできないので、指揮者の棒が頼りです。バレエを際立たせる演奏をするために、指揮者はまずダンサーと一緒に稽古、その後オーケストラとリハーサルを行いG.P.(本番と同様に行う通し稽古)、本番へと臨んでいます。
——吉岡さんはスイス留学時代には劇場で演奏する機会が多く、オーケストラ・ピットで演奏することは馴染み深いことだと感じられているそうですね。TOTでの演奏もとても大切にされているそうですが、バレエのオーケストラの魅力はなんでしょうか?
吉岡そうですね。バレエ音楽は“踊りに合った音楽”ということで書かれているわけですが、音楽的にも素晴らしい。作品が魅力的ということが一番だと思います。
——吉岡さんへのこのインタビューを読んだ方に、ぜひTOTやバレエ観劇に足を運んでいただけたらうれしいのですが、おすすめの演目はありますか?
吉岡鉄板ではありますが、チャイコフスキーの《眠れる森の美女》《くるみ割り人形》《白鳥の湖》、プロコフィエフの《ロミオとジュリエット》《シンデレラ》の5作品。とくに《ロミオとジュリエット》はジュリエットのテーマにフルートを使うことが多いので、活躍の場が多い演目です。 《くるみ割り人形》や《白鳥の湖》はオーケストラの演奏会でも組曲としてよく演奏されるので、バレエは知らなくても聴いたことのある方は多いと思うんですよね。本来どういう踊りのために書かれたのか、という視点でバレエを観に行くのはとても面白いことだと思います。そうすると、オケだけの組曲を聴いていても視点が広がると思います。 いずれにしてもオーケストラを聴いたりバレエを観ることは同じ芸術を楽しむことなので、気軽に足を運んでいただけたらうれしいです。
長きにわたって国内のバレエ音楽を牽引し、シアター オーケストラ トウキョウの名誉音楽監督を務める福田一雄氏は"オーケストラの原点は劇音楽にある"と常々語っている。 言葉のないバレエではより密接な踊りと音楽の関係性があり、オーケストラとバレエ団がパートナーとして存在できるからこそ創れるものがある。作品に寄り添ったオーケストラとは何なのかを体現するために、TOTはK-BALLET TOKYOと一緒に総合芸術を目指している。
吉岡次郎×長尾洋史「J.S.バッハ/フルートとピアノによる6つのトリオ・ソナタ BWV525-530全曲演奏会」
日時:2024年08月29日(木) 19:00開演
場所:MUSICASA ムジカーザ(東京都)
コンサート詳細 : https://www.k-ballet.co.jp/orchestra/performance/yoshioka_nagao.html
オーケストラ
中の人は、アマチュアオーケストラで打楽器をやっています