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「サックスってこんな音色がするの?」 吉田充里さんが届ける多彩な音色

2024/08/16

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「サックスってこんな音色がするの?」
吉田充里さんはクラシック、ジャズのコンサートやライブで活動するサックス奏者。吉田さんの演奏を聴いた人は、驚きと発見をもって感想をそう口にするという。

「サックスは倍音を多く持つ楽器。クラシックジャンルにおけるサックスの魅力は、豊かな音量にあると言われていますが、音色も多彩です。クラシックのなかではホルンとクラリネットの間のような柔らかい音色が、ジャズのなかでは人の声のようというのがサックスの魅力です」

吉田さんは、クラシック、ジャズの枠組みにとらわれず、サックスの音色の魅力を発揮し、楽器としての可能性を広めるべく活動をしている。

「私がライフワークにしているコンサートシリーズ『neiro shower』では、基本的にクラシック作品を取り上げています。他の楽器のために書かれた曲をリアレンジし、奏法はクラシックに限定しません。曲によって奏法や音色を楽しんでいただきたくて、例えば、テレマンの作品はジャズの音色で、「クープランの作品はクラシックの音色がぴったりなので、クラシック奏法でと吹き分けています」

ゲストで参加するジャズのステージでもその姿勢は変わらない。

「ジャズのステージではあえてクラシックの奏法で演奏します。普段クラシックを聴かないジャズ好きな方にとってはクラシック奏法の音色は新鮮に聴こえるので、どちらのお客さまからも『サックスってこんな音色がするの? 知らなかった』と感想をいただいています」

クラシックとジャズ、音色はどうやって変えるのだろうか?

「現在推奨されているクラシックの吹き方は、マウスピースの上に前歯を当て下唇でリードを支え、頬を膨らまさずにまっすぐ息を入れます。一方ジャズについては、それほど細かく決まっておらず、頬も膨らませてもいいし、息が漏れても構わない。
メーカー側もジャズ用、クラシック用としてマウスピースとリードを用意していて、音色の幅や音程の違いの特色があります」

長年コンビを組むピアニスト・梶山ななえさんと

コンサートやライブで取り上げる曲目にもねらいがある。

「同じ木管楽器でもより歴史の長いフルートやクラリネットと比べると圧倒的に曲数が少ないので、サックスを演奏する人をもっと増やすためにレパートリーの強化にも積極的に取り組んでいます。特にサックスがまだなかった時代(サックスの誕生は1840年代初頭)の楽曲を中心に据えています。」

ところが既存の曲を編曲するにも苦労があるという。

「例えば今、ショパン《チェロ・ソナタ》を編曲中ですが、チェロの音域が4〜5オクターヴ位、倍音を鳴らすフラジオ奏法を用いればそれ以上になるのに対して、サックスは2オクターブ半ほど。音域の不足を解消するために部分的にオクターヴを変えたり、フラジオ奏法を使うなどしています。また、弦楽器には複数の音を一緒に弾く、“重音”がありますがサックスは一つの音しか鳴らせないという違いもあります」

それなら声楽曲と相性が良いのでは? と尋ねると、吉田さんは目を輝かせる。

「実はこれまでにも何曲か挑戦しました。声楽曲のアレンジ、私自身もかなり面白いと思っています。とくにジャズの吹き方だと、人の声にかなり近いアーティキュレーションが表現できるので、なおさらです。
例えば、メゾ・ソプラノの波多野睦美さんと知り合い、波多野さんのドビュッシー歌曲を聴いて『波多野さんの歌っているようにサックスを吹きたい』と、レッスンをお願いしたことがありました。波多野さんが歌って、僕が真似して吹く。波多野さんご自身もサックスとの共演が多い方で、楽しんでレッスンしてくださいました。アーティキュレーションを波多野さんの歌に近づけるレッスンをしていただき、波多野さんの歌唱に少し近づきました」

教会でコンサートを行う吉田さん

“歌唱のように“、とはどのような感じなのだろうか?

「息遣いやフレージングはもちろん、一番大きい要素はアタック。クラシックのサックスでは音はタンギングで『トゥ』と言いながら発音しますが、歌曲には母音から始まるフレーズもあれば子音から始まるフレーズもある。そうすると『トゥ』だけでは対応できません。舌の位置をどこにするか、舌を付けずに息だけのノンタンギングで音を出すかという違いがあります。また、言葉のニュアンスを加味して低いピッチから入ったりという表現方法を学びました」

クラシックを期待するお客さんに向けてジャズの奏法を披露したり、ジャズのステージではクラシックの奏法を披露したりと、チャレンジングな吉田さん。レパートリーの発掘から編曲、コンサートの企画の他にも、ご自身でサックス教室「レント」も運営されている。だが、お話をされる様子はとても穏やか。アグレッシブな活動内容とのギャップを感じた。その情熱の源は何なのか?

「ジャズ奏法だけでしか吹かない、クラシック奏法だけでしか吹かないというように、サックスの世界はジャズとクラシックで大きく二分されています。同じ楽器を吹いているのにもったいないことだと思っています。だから、僕だけでなく、もっといろいろなサックス吹きの方たちがクラシックもジャズも分け隔てなく演奏できるようになってほしいと思っています」

(取材・構成=東ゆか)

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吉田充里

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