加藤訓子が率い、プロを育成する芸術文化ワークス

2024/06/24

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芸術メセナの老舗NPOとして

 プロを目指す若い演奏家にとって、目指す音楽を極めていくための機会や場を得ることは、容易なことではない。ロッテルダム音楽院を首席で卒業し、世界を舞台に活躍するパーカッショニストの加藤訓子さんが、様々な形で若手音楽家や舞台芸術を支援している芸術文化ワークス の代表理事を引き受けたのは2017年。「演奏家として自立していこうとする若者がチャレンジして、経験を積める場を創っていきたい」という気持ちからだった。

©︎ Atsushi Yamaguchi 12/2022 「Steve Reich Project」めぐろパーシモンホール開館20周年記念公演

 特定非営利活動法人芸術文化ワークスは、「メセナによる公演事業」の実施や「芸術による街づくり」を目指してNPO黎明期の2000年に創立した老舗団体だ。現在、団体の活動の柱は四本あり、そのうちの一つが「次世代人材育成」。若手演奏家のアーティスト・インキュベーションとして、2016年に「inc.パーカッションデイズ」を始め、神奈川県立相模湖交流センター全館を舞台に、コンサート、リサイタル、勉強会、インスタレーションなどを継続的に実施している。この企画は、加藤訓子独自の発想で始動し、これまで多くの若手パーカッショニストが育っている。2020年には東京都がオリンピック・パラリンピック開催地の芸術文化的魅力を発信するために行われた「Tokyo Tokyo FESTIVAL」に企画が採択され、作曲家クセナキスが打楽器奏者のために書いた大曲を演奏する「18人のプレイアデス」として実を結んだ。

 インキュベーションに参加する音楽家には広く門戸を開いているというが、当然相応の高い課題が与えられる。そこで目標に向かって続けていける精神力、体力とその結果培われる技術力がある奏者だけが自然と残っていくという。「若手が『本物の場』を通じてプロとして育っていくことにやりがいを感じるし、音楽を自分の人生に組み入れて、継続して磨いていくことができれば誰にでもチャンスはある。」と加藤さんは言う。

 インキュベーションの頭文字をとったプロジェクト名「inc. 」は、ジェンダーはもちろん、先輩、後輩、学閥や使用楽器メーカーなどの括りを全て排除するという、当たり前だが、日本では稀なポリシーを実践。そのため 多くのメーカーが賛同し、機材のサポートを行っている。

 実際、プロジェクト当初は加藤さんが個別に声をかけて参加者を募ることもあったが、現在は活動を知った若手が自分で応募してくる。常時20〜30人ほどが参加しており、のべ参加者は約50人に上る。

©︎ Atsushi Yamaguchi 12/2022 「Steve Reich Project」めぐろパーシモンホール開館20周年記念公演

地域で育てる・豊かな音楽と次代を担う人材

 団体としてはその他、トップレベルの芸術文化事業を創造する「舞台芸術」、アーティストの国際的な活動と交流を支援する「国際芸術交流」、地域のホールや文化施設と協働して公演、ワークショップの開催や舞台技術の指導も行う「コミュニティ開発」(芸術文化による地域活性化)を活動の柱としている。

 中でも、地域に根差した活動は、愛知県豊橋市出身で豊橋特別ふるさと大使も務める加藤さんの思い入れも強い。加藤さんが子どものころに「何もない」と感じていた豊橋市も、地元企業が文化をスポンサードする土壌があり、1965年から活動し、世界規模のアマオケ組織を立ち上げた豊橋交響楽団が存在し、穂の国とよはし芸術劇場PLATが2013年に開館して地域の拠点となるなど、音楽や芸術が市民ベースで根を張っている。「海外では、本当に小さな村で国際的な音楽フェスティバルが開かれているし、日本でも、東京都心から少し離れた郊外や、豊橋のような地方都市には、音楽家が音楽に打ち込める環境やハードがそろっていて、取り組み方によっては、今後大きな可能性を感じる。」

 実際に、全国の公共施設とのコラボレーションや、廃校再活用プログラム、打楽器ワークショップや、子ども向けの演劇作品に加藤さんが音楽監督としてかかわるなど、活動は多岐にわたっている。地域とコラボレーションすることで、次代を担う若手にはホールの運営者はもちろん、舞台・機材スタッフや事業運営スタッフがいることで、はじめて自分たちが舞台に立って演奏できるという認識と周りへの感謝の気持ちを実感させている。

 そんな中で、今期から本格的にスタートするのが「MUSIC DAY SERIES」という数か月にわたるプロジェクトだ。20世紀の偉大な作曲家ヤニス・クセナキス やドイツをベースに活躍する韓国人作曲家イリャン・チャンのポートレートコンサートなど、意欲的な取組が多い中、今年87歳を迎えた現存する最もポピュラーな 作曲家と云われるスティーヴ・ライヒ往年の作品を、加藤さんと若手音楽家たちで演奏するツアー「スティーヴ・ライヒプロジェクト」が6/28の彩の国さいたま芸術劇場を皮切りに、8/25のロームシアター京都、9/13,14の愛知県芸術劇場、9/16 三重県総合文化センターと続いていく。前後して8/24には、穂の国とよはし芸術劇場PLAT、9/21には神奈川県立音楽堂にて能楽、コンテンポラリーダンスとの共演もあるプロデュース公演「メタ・クセナキス」も開催される。演奏メンバーの内6人は、クセナキスの出身地・ルーマニアの名を冠した国際音楽コンクールでグランプリを受賞しており、ルーマニア、ベルギー、オランダなどでの欧州遠征ツアーへ今秋旅立つ。

©︎ Atsushi Yamaguchi 12/2022 「Steve Reich Project」めぐろパーシモンホール開館20周年記念公演

 演奏会はもちろん、インキュベーションの場もリハーサルやセッションを広く一般公開し、プロ育成現場と音楽が創られていく過程も気軽にみられるように配慮している。出演者の知り合いはもちろん、会場の近隣住民がふらっと立ち寄ったりすることもあるといい、さらには通い詰める人もいて、演奏家のファンが生まれることもある。「演奏や稽古、制作過程を見ていただき、地域の皆様と共に、芸術文化の豊かさを共有しながら、同時に世界に通用する次世代の演奏家を育てていきたい。」

©︎ Atsushi Yamaguchi 12/2022 「Steve Reich Project」めぐろパーシモンホール開館20周年記念公演

今後の開催コンサート

スティーヴ・ライヒ プロジェクト 埼玉公演

日時:2024年06月28日(金) 17:30開演

場所:彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール(埼玉県)


コンサート概要

STEVE REICH『kuniko plays reich ll / DRUMMING LIVE』埼玉公演
加藤訓子 プロデュース スティーヴ・ライヒ プロジェクト

●みどころ
加藤訓子が今をリードする若手プレイヤーを率いてスティーヴ・ライヒの往年の代表作を演奏するプロジェクト。今年4月、世界リリースされた話題のニューアルバム「kuniko plays reich ll」の圧倒的な完成度とライブソロ+テープによるパフォーマンス、ライヒ70年代の最高傑作、12人の奏者による「ドラミング」ライブをお楽しみください。

コンサート詳細 : https://www.concertsquare.jp/blog/2024/202406163.html

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