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2025/03/28
「音楽はみんなのもの」――この言葉には、東京を拠点に活動するアマチュアオーケストラ「新交響楽団」が70年にわたって追求してきた理念が込められています。1956年に作曲家・芥川也寸志を音楽監督として設立された新交響楽団は、単なる趣味の集まりを超え、ショスタコーヴィチ「交響曲第4番」の日本初演や、日本の交響作品展の長期開催など、プロのオーケストラさえ躊躇するような挑戦的な活動を続けてきました。 2025年、創立指揮者である芥川也寸志の生誕100年を迎えます。今回は、彼の遺した「アマチュアは愛が語源であり、アマチュアこそ音楽の本道」という思想を継承しながらも、若い世代が主体となって次の時代への革新を目指す新交響楽団の魅力に迫ります。
——まずは、新交響楽団の成り立ちと特徴について教えてください。
藤原新交響楽団は1956年3月に東京労音新交響楽団として発足しました。その前身は1955年に結成された労音アンサンブルで、当初から芥川也寸志先生を指揮者としてお迎えしていました。1966年に東京労音から独立し、現在の新交響楽団としての歩みを始めています。 ちなみに、私たちの団名に「新」という字がつくのは、「新しい」という意味ではなく、創立当時、既存のプロオーケストラとは異なる「新しい形の交響楽団」を目指したからです。
瀧野歴史が長いことに加え、年4回の自主演奏会を開催しているという頻度の高さが特徴です。選曲の面でも、王道の曲もやりつつ、あまり普段スポットライトを当てられないような曲も幅広くバランスよく取り上げています。また、年齢層も幅広く、現役大学生から80代まで多様な世代が一緒に活動しています。
藤原団員のバックグラウンドも多様なんです。音楽以外にも一芸に秀でた「濃ゆい人」が多いのが特徴です。地図の専門家など、様々な分野に詳しい人がいて、曲の背景について議論が起きると、専門的な知識が共有される場面もあります。音楽以外のことにも詳しい「オタク」な人が多いのが面白いところですね。
——まさに老若男女、様々なバックグラウンドの方が所属していらっしゃるんですね。そのような多様な構成員が集まる中で、どのように団を運営されているのかをお聞かせください。
瀧野内務、渉外、広報、財務など様々な日々の運営や、演奏会の実務を担う団員からなる「運営委員会」と、練習のスケジュール計画やパート決めなどを担う、各パートの首席からなる「演奏委員会」が組織されています。これらとは別に、団員が誰でも参加できる「合同委員会」という月次のミーティングがあり、演奏会企画や活動全般に関する話し合いを行っています。団の主体性をみんなで保っている場所です。
藤原オーケストラでよくあるのは、一部の音楽に詳しい人ややる気のある人だけが全ての仕事を請け負い、演奏会の内容もその人たちだけで決めてしまうようなスタイルです。それはそれで良いところもあるのですが、新響の場合は偏りによるデメリットを避けるために、全員参加型のオープンな場で大事なことを決める形を取っています。 また、どんな小さな仕事でも良いから、団員それぞれが少なくとも一つの運営の仕事を受け持つようにしています。例えばアンケートを集計して文字に起こして伝達するだけでも一つの仕事としてカウントします。そうすることで団員全員が運営に主体的に関わる意識を持てるようにしています。これが長続きしている秘訣ではないでしょうか。
平山僕は、現役大学生なのですが、今年から企画を任せてもらっています。まだ探り探りではありますが、年4回演奏会がある強みを活かして幅広いことができるよう心がけています。1年あるいは数年のスパンで見た時にバランスの取れたものになるよう、曲の年代や国籍、企画の性質など様々な側面でバランスを考えています。
——トップダウンではなく所属する皆さんで運営されているというのは、「音楽はみんなのもの」という理念にも通づるものがありますね。新交響楽団の演奏面での特徴や強みはどのようなものでしょうか。
瀧野出席率がとても高いことが大きな強みです。他のオーケストラだと弦楽器が半分しかいなかったり、管楽器も欠席者がちらほらいたりなどといったことが少なくありません。しかし、私たちは穴のない状態で毎週定期的に練習できています。さらに最初の練習から皆がしっかり曲を予習してくるので、スタートが早く、3ヶ月の練習期間を建設的に使えるのが魅力です。
藤原入団前に必ず練習見学に来ていただき、その上でオーディションを実施しています。見学者の方からは「出席率が高い」「練習のレベルが高い」という感想をよくいただきます。練習の頻度や求める出席率などの条件をあらかじめ説明した上でオーディションを受けてもらうので、最初からそれを覚悟して入ってくる人が多いんです。そのため、ミスマッチが少ないのも特徴かもしれません。
——いわゆる「若手」の立場である、現役大学生の平山さんから見た新交響楽団の魅力はどんなところでしょうか。
平山人生経験が豊かな方が多いので、音楽以外の面でも学ぶことが多いです。例えば就活をする団員がいる時に、先輩団員がエントリーシートを添削してくれたりと、人生の様々な段階で先輩たちからアドバイスをもらえます。ある意味家族と言っても過言ではないような関係性で、練習後に様々な年代の人と飲みに行ったりしながらコミュニケーションを取れるのは貴重な経験だと思います。 今は若くて上手なオーケストラもたくさんあり、同年代の人たちとワイワイ楽しくやるのも良いのですが、新響のように70年近い歴史の中で培ってきたものに触れられる環境は特別です。音楽面でも運営面でも、様々な年代の人が所属している環境で音楽をやることの面白さを、自分のような若い人たちにもぜひ伝えたいですね。
——新交響楽団の特別な点として、創設者である芥川也寸志氏との長い関わりがありますね。その点についてもお聞かせいただけますか。
藤原芥川也寸志先生は新響の創立者であり、精神的支柱です。1955年の結成から1989年に逝去されるまで、約34年間にわたって指導してくださいました。新響に対しては特別な思い入れをお持ちで、晩年には「新交響楽団とともに30年を過ごすことができたのは、私の人生においてかけがえのない素晴らしいことの一つであった」とまで述べられています。 私は15年ほど新響に所属していますが、本当に今は過渡期だと感じています。瀧野さんや平山さんのような若手がやる気を持って運営の中核に来ている一方で、「妖怪」とも呼ばれるベテランの方々もまだいらっしゃる(笑)。 今ならベテランの方々から直接話を聞くことができるし、「芥川先生がこういうことを言っていた」「この曲のここの解釈はこうだった」というのも実際の練習の中で体感できる。これは本当に今しか味わえない経験です。
——「芥川氏から直接指導を受けていた団員」がまだ所属している今だからこそ得られる学びがあるということですね。2025年は芥川也寸志氏生誕100年、2026年は新交響楽団創立70周年という記念の時期を迎えられますが、今後の展望について教えてください。
平山今年は芥川也寸志生誕100年シリーズとして、4月、7月、10月の3回の演奏会を通じて先生の作品を中心としたプログラムを展開します。特に4月の演奏会は一番の目玉で、サントリーホールで開催します。1986年に新響が日本初演を果たしたショスタコーヴィチ「交響曲第4番」を再演するほか、芥川先生がサントリーホールのために書きおろした「響」も演奏いたします。オルガンのソリストとして、すでに当団と共演を重ねる石丸由佳さんをお迎えしています。 さらに新進気鋭のピアニスト松田華音さんにて、ロシアの作曲家シチェドリンの「ピアノ協奏曲第2番」の蘇演も予定しています。かつて日本初演を成し遂げた実績に安住せず、新しく先々を見据えた活動も続けていくという姿勢を示したいと思います。
新交響楽団 第269回演奏会
日時:2025年4月19日(土) 18:00開演
場所:サントリーホール 大ホール(東京都)
詳細 : https://www.concertsquare.jp/blog/2025/2025011629.html
指揮: 坂入 健司郎 オルガン: 石丸 由佳 ピアノ: 松田 華音 芥川也寸志: オルガンとオーケストラのための『響』 シチェドリン: ピアノ協奏曲第2番 ショスタコーヴィチ: 交響曲第4番 ハ短調
——最後に、コンサートスクウェアの読者の方々へのメッセージをお願いします。
瀧野新響は長い歴史がありますが、同時に未来志向であることも強調したいです。例えば、若めの指揮者を呼んだり、これまでやってこなかった曲に挑戦したり、運営の主体も平山さんのような若い人たちが担ってくれています。ベテランの方々も若手の意見を尊重してくださり、「やりたいようにやれば良い」という雰囲気を作ってくださっているので、とても活動しやすい環境です。
平山大学のオーケストラ仲間で立ち上げた若いオーケストラもたくさんあります。それはそれで楽しいと思いますが、10年後も同じメンバーで同じ勢いで続けられるかというと難しい面もあるでしょう。新響は70年という長い歴史があり、その中で音楽に対する姿勢も変わっていきます。「怖い団体なのでは」と思われがちですが、実際には上手な人ほど謙虚で、ストイックな人が多く、皆優しく教えてくれます。
藤原気になった方は、ぜひ一度、新響の演奏会にお越しください。また、「自分も演奏してみたい」と思われる方は、練習見学にもぜひお越しください。新しい仲間をいつでも歓迎しています。音楽は決して特別な人だけのものではなく、誰もが享受できる、心を豊かにしてくれるものです。その喜びを皆さまと分かち合えることを心から楽しみにしています。
——本日はありがとうございました!
(インタビュー・構成/松永華佳)
中の人は、アマチュアオーケストラで打楽器をやっています