多彩な楽曲&客演が彩る愛知室内オーケストラの引力

2002年に愛知県立芸術大学出身の若手演奏家を中心として発足した愛知室内オーケストラ(ACO)。発足当初の主催公演は年1回でしたが、次第に活動の機会を増やし、今年は20公演を予定しています。 2015年には新田ユリ氏を常任指揮者に、2022年には山下一史氏を音楽監督として迎え、2024年には愛知県芸術文化選奨文化新人賞受賞、同年4月には首席客演指揮者兼アーティスティック・パートナーに原田慶太楼氏が就任し、東海地方のクラシック音楽文化において、年々存在感を強めています。

ACOの魅力の一つは、室内オーケストラならではの、繊細で凝縮されたサウンドや音楽性と、知られざる名曲を届ける姿勢です。本インタビューでは、ACOを代表して4名の奏者の方にACOの魅力や、今後の公演の意気込みを伺いました。

左から久保さん(トロンボーン)、橋本さん(ヴィオラ)、梅村さん(コントラバス)、春日井さん(ヴァイオリン)

団員が語る入団のきっかけとACOの魅力

——皆さんがACOに入団されたきっかけを教えてください。

梅村(コントラバス)愛知県立芸術大学在学中にエキストラで出演させていただいたときに、「団員になりませんか?」とお声がけいただきました。プロオーケストラの団員になることは夢の一つでしたし、愛知県内のオケなら通うのに問題がなかったので二つ返事でお誘いを受けました。入団3年目です。

橋本(ヴィオラ)私の楽器はアンサンブルで活躍する楽器。学生時代から室内楽で演奏をしていたので、ACOのような編成の小さなオーケストラに魅力を感じていました。私もエキストラで参加したときにお声がけいただいたことをきっかけに入団しました。入団7年目です。

春日井(ヴァイオリン)私もエキストラがきっかけです。皆さんと違って私は東京在住。新幹線で通ってまでなぜ入団したかというと、ACOの皆さんの温かくて優しい雰囲気と、積極的で雰囲気のいい演奏にもひかれたからです。入団して4年目です。

久保(トロンボーン)僕は入団して1年が経ちました。エキストラを経て、オーディションを受けての入団でした。ACOは弦楽器の編成がコンパクトなので、通常のオーケストラよりも音量を落とす必要がありますが、ただ全体的に音量を落とすだけでは表現が伴いません。それではどう吹くかを考えたり工夫することが勉強になっています。大きな編成ではできない経験ができる面白さを感じて、オーディションを受けました。

——大編成のオーケストラよりも音量は押さえつつも、その分、より美しい音でというのは弦楽器のみなさんも意識していることですか?

梅村、橋本、春日井(大きくうなづく)

久保(トロンボーン)みなさんそうですよね。そう考えていることは演奏から伝わってくるのではないでしょうか? 全国的にも稀有な存在のオーケストラだと思います。

横山幸雄指揮、ACOとの音楽づくりの期待高まる

——昨シーズンから来シーズンには、ピアニストの横山幸雄さんが指揮を務める「横山幸雄×ACOベートーヴェン協奏曲」シリーズがあります。現在第2回のリハーサル中とのことですが(※インタビューは5月に行われました)、横山さんの印象はいかがでしょうか?

梅村(コントラバス)横山さんはピアニストとしてすばらしい方ですが、指揮においてもその音楽性が出ていると感じています。とても刺激的なリハーサルです。

横山幸雄
©︎ ZIGEN

橋本(ヴィオラ)5月の公演ではベートーヴェン《ピアノ協奏曲2番》とメンデルスゾーン《交響曲第4番「イタリア」》を演奏します。横山さんの指揮の雰囲気はまるでピアノを弾いているかのようです。イメージされている音も振り方も、ピアノからインスピレーションを受けているのではないかなと思い、興味深いです。

ピアノは鍵盤を押せばすぐに音が出る楽器。一方でオーケストラは人数も多く、音の出方がさまざまです。例えばコントラバスは弦も太く、楽器も大きいので音が鳴るのに時間がかかりますが、ヴァイオリンはそうではなかったりと、いろいろな楽器があるなかで、重たく指示を出す指揮者もいれば軽やかに出す指揮者もいますが、横山さんはピアノの軽やかな感じで、まるで貴公子のような雰囲気がありますね。
特にメンデルスゾーンは軽くて品のある音作りに向けて、一緒に進化していけそうで楽しいです。

久保(トロンボーン)演奏家として、私たちと近い視点の言葉の選び方をされますよね。横山さんにとっては指揮をされることが挑戦の一つかもしれませんが、私たちACOにとっても、横山さんが求める楽器の音色やイメージを再現できるか、一緒にどのような音楽が作っていけるかというのは新たな挑戦でもあるなと感じています。

バソンの魅力を味わう「フランス・プログラムシリーズ」

——7月4日にはバソンを用いたフランス・プログラムシリーズがあります。バソンはファゴットと似た楽器ですが、楽器の材質や太さ、音色も微妙に異なった楽器です。

久保(トロンボーン)コンサートで取り上げるのは、シャブリエ、ルーセル、イベール、プーランクといった19世紀末から20世紀を生きた作曲家の作品。当時の、特にフランスのオーケストラではファゴットではなく、バソンが使われていたので作曲家たちもバソンの音色をイメージして作品を作りました。実際に聴いてみると「確かに」と、納得させられます。

テオ・サラザン
©︎ Caroline Doutre

春日井(ヴァイオリン)サラザンさんには毎回この「バソンシリーズ」でソリストとしてお呼びしていましたが、今回はオケの中で吹いていただくんですよ。

梅村(コントラバス)バソンは面白い音色。ガット弦のような、少しザラザラした感じですね。

久保(トロンボーン)サラザンさんが「バソンはファゴットと成り立ちは同じだけど、実は一番遠い楽器」だとおっしゃっていたことも印象的です。どういう意味かは、その言葉そのものが衝撃的すぎて詳しく聞けなかったのですが……。

——近いのに遠いというのは、なんだかミステリアスですね。ぜひ実際に聴いて確かめてみたいです。

3シーズン目の山下一史音楽監督&原田慶太楼氏の首席客演指揮者就任 ACOの音楽がますます深まる

——4月には首席客演指揮者兼アーティスティック・パートナーとして原田慶太楼さんが就任されました。「日本で演奏される機会のない曲目に取り組みたい」とコメントを寄せられています。ACOは今までも、マイナーな曲に取り組まれていますね。

春日井(ヴァイオリン)毎公演、譜読みを頑張っています(笑)。

橋本(ヴィオラ)私たちからすると、マイナー曲はやりがいがある一方で経験値が少ないぶん、両刃の剣でもあるんです。

春日井(ヴァイオリン)ACOで取り上げる曲は、私たちも初めて接するような曲もありますが、演奏してみて「素敵だな、好きだな」と思える曲とたくさん出合えています。
来場者アンケートでは、「もっと有名な曲を聴きたい」というお声もいただきますが、幅広い曲目を取り上げるのがACOの魅力そのもの。そういった出合いをお客さまにも楽しんでいただけたらいいなと思っています。

久保(トロンボーン)去年8月に原田さんと一緒に演奏した、メキシコ人作曲家のアルトゥロ・マルケス《ダンソン第4番》はラテンの要素が入った曲。僕自身、演奏を機にお気に入りの曲になって、今でも音源を探して聴くほどです。有名ではないけど魅力的な作品と出合えるのがACOの魅力ですね。そうかと思えば12月にはドヴォルザーク《交響曲第9番「新世界より」》も取り上げるのは、かえって新鮮な気もしています。

——原田さんは38歳。皆さんと年齢も近いので音楽づくりのコミュニケーションも取りやすいのかなと思うのですが、いかがでしょう?

原田慶太楼
©︎ kumiko suzuki

春日井(ヴァイオリン)原田さんはオープンマインドな方だからリハーサルのときの話し方にしてもコミュニケーションの取り方がフランクなんですよね。クラシックもフランクに聴かせてしまうような魅力があります。

久保(トロンボーン)もし原田さんが60歳だとしてもきっとコミュニケーションの取り方は変わらないんじゃないかな。原田さんがもつ特別な個性は年齢に左右されるものではないと思いますね。

梅村(コントラバス)過去のACOとの演奏会では曲間でMCもされていました。普段のコンサートとはまたひと味違って、きっとお客さまにも喜んでいただけたのではないかと思います。

橋本(ヴィオラ)音楽だけでなく、トークでもお客さまをひきつけるのは彼にしかできないことだと感じています。原田さんは誰とでもすぐに友だちになってしまうような方だから、お客さまがオーケストラや、知らない曲を聴く敷居を下げてくれるのでないかと期待しています。

——音楽監督の山下一史さんとは3シーズン目を迎えましたね。

山下一史
©︎ ai ueda

梅村(コントラバス)このごろは、言葉を介さなくてもお互いのやりたい音楽がわかりあえてきたと感じています。だからより一層、お客さまにも私たちの音楽が伝わるシーズンになればいいなと思っています。

春日井(ヴァイオリン)毎回のリハーサルも本番も、誰よりも汗をかいていらっしゃる印象が強くあります。私たちもその思いを受け止めて、ACOの演奏をさらに進化させていきたいです。

久保(トロンボーン)僕はオーディションのときから監督の音楽に対する情熱や、それゆえの厳しい面をお持ちでいることを感じていました。それは今でも、リハーサルでも本番でもひしひしと感じます。

橋本(ヴィオラ)監督はとにかく情熱的で人情味がある方。私たちとより良い音楽と作ろうという思いを持っていらっしゃることが伝わってきます。私たちもそれに応えたいという、お互いの気持ちの高まりを感じているので、山下監督としかできない音楽を作り上げていきたいと思っています。

(取材・構成=東ゆか)

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