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世界を音楽でつなぐ——リコ・ワイマーが提唱する新しい教育の形

2024/10/17

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リコ・ワイマーさんは、ロサンゼルスを拠点に国際的なピアノ教育法「リコメソッド」を創立し、音楽教育の新たなアプローチを提唱してきたピアニストです。彼女はアメリカ、ヨーロッパ、日本など多くの国で公演や公開レッスンを行い、音楽教育の分野で幅広く活躍しています。リコさんが手がけるメソッドは、単なる技術の習得にとどまらず、個々の学習者の個性を尊重し、音楽を通じて創造力を育むことを重視しています。

今回のインタビューでは、リコメソッドの誕生背景や、彼女が国際的に推進している音楽教育の理念について詳しく伺いました。また、彼女が長年にわたり積み重ねてきた経験や、今後の展望についても語っていただきます。

リコ・ワイマー
沖縄生まれ。ピーボディ音楽院にてピアノ演奏を学び、その後フランスのエコールノルマルでエドソン・エリアス氏に師事。1987年にデビューリサイタルを行い、アメリカやヨーロッパ、日本で演奏活動を展開。1998年にビバリーヒルズにピアノスタジオを開設し、2014年には「リコメソッド・スクールオブピアノ」を開校。現在は、オンラインキャンパスを通じて世界中の生徒と講師に指導を行い、音楽教育の発展に貢献している。

——リコメソッドは非常に独自性のあるメソッドですが、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

リコ「リコメソッド」は、私自身の教育や演奏の経験をもとにして生まれました。元々、音楽を教えるだけでなく、学習者が自分で考え、創造性を発揮できるカリキュラムを作りたいと思っていたんです。

ピアノを教える中で、ただ技術を身につけるだけでなく、音楽を通じて子どもたちが自分を表現できる場を提供したいという思いが強くなっていきました。

——そもそも、リコさんが音楽と教育の結びつきに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?

リコ日本では特に、お子さんの習い事としてピアノは非常に人気が高いですよね。アメリカやヨーロッパでももちろん音楽教育は重要視されていますが、特にピアノは「頭に良い」と言われて、何百年も支持されてきました。

ただ、ピアノは非常に複雑な楽器で、指を動かし、楽譜を見て、音を聞いて、それをすべて同時に行わなければならないんです。それが時に、音楽の本質である楽しさや表現を見失わせる原因になってしまうことがあります。

——テクニカルな面に集中しすぎると、音楽の楽しさが損なわれるということですね。

リコそうです。技術的なミスを避けようとするあまり、子どもたちは「音楽作り」自体に触れられなくなり、結果として「つまらない」と感じてしまう。そうなると、せっかくの音楽がただの作業に感じられてしまい、辞めてしまう子も多いんです。

それは非常にもったいないことだと思います。私は、音楽を楽しいもの、創造的なものとして捉えてもらうための教育を提供したいと強く感じています。

一番の問題は、教師たちが自分の習ったやり方だけをそのまま教えていることだと思います。もちろん、技術的には上手に弾ける人も多いのですが、子どもたちが練習を怠けたり、理解が遅かったりすると対応が難しくなることがあります。

特に、日本では学歴や成績が重視されがちで、それに合わせた教育が行われています。しかし、そういったアプローチでは、生徒の個性や感性が十分に育たないことが多いのです。

——スキルに焦点を当てた指導よりも、いわゆる「情操教育」が音楽を教える上では大きな課題だということですね。

リコ子どもたちが音楽の楽しさや自分自身を表現する力を育てることができなければ、音楽に対する興味を失ってしまうのは避けられません。

そして、その結果としてクラシック音楽や演奏会に興味を持つ人も減ってしまう。だからこそ、私は音楽教育は単なる技術指導ではなく、芸術や未来のための基盤を作るものだと考えています。

——リコメソッドでは、そのような問題にどのように対応しているのでしょうか?

リコリコメソッドでは、生徒たちが自分の想像力や感性を存分に活かして音楽を創り上げることができるようにしています。例えば、モーツァルトやバッハなどの偉大な作品をただ弾くのではなく、それをどう感じ、どう表現するかを重視しています。

楽譜を読むことやテクニックを習得することはもちろん重要ですが、それ以上に「音楽を創る楽しさ」を伝えたいと思っています。

——音楽教育を通じて、学習者のイマジネーションの成長を支えることがリコメソッドの魅力なのですね。

——リコメソッドは、特にどのような点で他のピアノ教育法と異なるのでしょうか?

リコ一番の違いは「対話を通じた学び」を大切にしているところです。生徒にただ指導するのではなく、彼らが自分で考え、感じたことを音楽に表現する手助けをしています。

例えば、「この曲はどんな場面を描いていると思う?」と問いかけ、生徒自身がイメージを持って演奏できるように促します。それが生徒たちにとって、音楽をただの技術的な作業ではなく、自己表現の手段に変える鍵となります。

——「教える」というよりも、「一緒に創り上げる」といったアプローチですね。

リコまさにそうです。「自分で感じたことを表現する」ということが、どれだけ大切かを伝えたいです。生徒が自分で見つけた答えを、音楽に反映できるようになる瞬間が何よりも大切だと思っています。

例えば、ある生徒が「この部分は誰かを待っている寂しさを表現したい」と言って演奏したとき、彼の演奏には大人には表現できないような深い感情が宿っていました。こうした瞬間を大切にしています。

——そのような自由な表現を引き出すためのカリキュラムがリコメソッドの中心にあるんですね。

リコリコメソッドのカリキュラムは、生徒一人ひとりの個性や成長に合わせて設計されています。譜読みやテクニックはもちろん重要ですが、それ以上に「自分で考え、音楽を創造する力」を育むことが中心です。

また、音楽教育を通して、子どもたちが自己肯定感や創造力を養えるよう、工夫を重ねています。

——音楽を通じて、生徒たちが自己表現を楽しめるように導いていらっしゃるんですね。今後、リコ・メソッドをどのように発展させていきたいとお考えですか?

リコクラシック音楽に興味がある人だけでなく、シンガーソングライターを目指す人やロックスター志望の方など、より多くの方にリコ・メソッドを届けたいです。入り口はどこでも構わないんです。

結果的に、クラシック音楽という素晴らしい文化を基盤にしたメソッドで、彼らがもっと音楽に興味を持ってくれるようになれば良いと思っています。

クラシック音楽は本当に素晴らしい文化です。音楽を通じて、人々が自分の人生の経験や感情を表現できるようになれば、誰でもクラシック音楽を楽しめると思います。

そして、その理解が広がることで、音楽会に行って「この人は有名だけど、私はこう感じた」というように、自分の意見を持てるようになる。それは、他者の意見を尊重しつつ、自分自身の感性を育むことでもあり、最終的には世界平和につながるんじゃないかと思っています。

——より多くの方が音楽を通して自分自身の感情を表現できるようになれば、相互理解が促進されるということですね。素晴らしいお考えです。

リコありがとうございます。音楽は、ただ「コンクールで1位を取った」などの断片的な情報ではなく、もっと深いところで人々と繋がるツールです。YouTubeやSNSなどを通じて表面的な部分が注目されることもありますが、クラシック音楽の深い理解があれば、さらに音楽の楽しみが広がるんです。

最終的には、人生がもっと幸せで愛に溢れるものであるために音楽を広めたいと思っています。ピアノをやる理由は、ただ技術を向上させるためだけではなく、人生を豊かにするため。それが私の目指しているところです。

——本当に音楽を愛しているリコさんだからこそのメッセージですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!

(インタビュー・構成/松永華佳)

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