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2025/02/03
「東京オペラNEXT」は、指揮者・村上寿昭さんを中心に、2024年4月に設立された新進気鋭のオペラカンパニーです。オーケストラ、オペラ歌手、コレペティ(ピアニスト)、指揮者が一体となり、「歌劇場を持たないオペラハウス」として独自の活動を展開しています。従来の枠組みにとらわれず、演奏家の成長と観客の心を豊かにすることを両立させることを目指しています。 東京オペラNEXTが目指すのは、オペラの敷居を下げ、多くの人々の生活に音楽を浸透させること。そして、演奏家たちが切磋琢磨しながら、一生を通じて成長を追求できる環境を作ることです。今回のインタビューでは、代表理事・音楽監督の村上さんに、東京オペラNEXT設立の背景や団体の理念、これからの展望について詳しくお話を伺いました。
——東京オペラNEXTの設立に至る経緯について教えてください。
村上東京オペラNEXTは、これまでの日本のオペラ文化の発展と課題を見つめ直し、新たな一歩を踏み出すために立ち上げました。きっかけは、2023年初頭から始めたオペラ歌手とコレペティ(ピアニスト)の勉強会です。音楽家同士が自由に意見を交わし、切磋琢磨できる場が、日本ではまだ十分に整備されていないと感じたのです。その場が思いのほか好評で、これを継続的な形にしていこうと考えました。 また、私が長年指導を受けた小澤征爾先生から学んだ音楽を次の世代へ伝えるという使命感も、団体設立の背景にあります。東京オペラNEXTという名前には、未来を切り開き、次世代へ音楽の可能性を広げていきたいという思いを込めています。 現在のところ、現役音大生からベテランまで幅広い世代のメンバーが集まっています。若手だけでなく、さまざまな経験値を持った人たちが一緒に活動することで、お互いに刺激を受け合い、それが全体のレベルアップにつながると考えています。 若い人たちはベテランの知識や経験から学ぶことができますし、逆にベテランも若い感性やエネルギーから刺激を受けられる。演奏技術だけでなく、知恵やアイデアも共有し合うことで、より良いコミュニケーションが取れるようになると信じています。
——村上さんは、海外経験も豊富ですが、日本のオペラ文化の特徴や課題、将来的に目指す姿についても教えていただけますか?
村上日本の演奏家は個々のレベルは非常に高いです。しかし、オペラのような総合芸術を作り上げる「チーム」としての一体感には、もっと向上していける余地があると思います。チームとして世界で結果を出している、野球やサッカーなどのスポーツと比較するとわかりやすいかもしれません。 東京オペラNEXTでは、チームとして成長することを目標にし、演奏家同士が自由に意見を出し合い、コミュニケーションを活発にすることを大切にしたいと思っています。例えばリハーサル中は、どんどん意見を言ってもらえるような雰囲気づくりを心掛けています。将来的に目指しているのは、日本人によるオペラ公演を海外で上演し、評価を得ることです。そのためにも、国内での活動を充実させ、まずは日本のオペラ文化をより豊かなものにしていきたいと考えています。 さらに、アーティスト同士だけでなく、観客とももっと近い距離感を作りたいと考えています。通常、コンサートホールではステージと客席の間に壁のような隔たりがありますよね。距離感を少しでも縮めるために、演奏後に観客と交流する時間を設けたり、意見を直接伺う場を持ちたいと思っています。こうした取り組みを通じて、観客とアーティストがより身近に感じられる関係を築いて行けるのではないかと考えています。
——日本と海外の両方のオペラに精通されている村上さんならではの視点で、東京オペラNEXTの活動を展開させているのですね。2025年にはどのようなプロジェクトを予定されていますか?
村上2025年2月には、ひの煉瓦ホールで「ヴェルディ・レクイエム」のコンサートが上演されます。
藝術文化の薫るまちコンサート ヴェルディ レクイエム
日時:2025年02月23日(日) 15:00開演
場所:ひの煉瓦ホール 大ホール(日野市民会館)(東京都)
詳細 : https://www.concertsquare.jp/blog/2025/202411301.html
今回の藝術文化の薫るまちコンサートは、ヴェルディの『レクイエム』を演奏します。 東京オペラNEXT音楽監督・指揮者 村上寿昭を迎え、日本を代表する豪華ソリスト陣、石上朋美(ソプラノ)、山川真奈(メゾソプラノ)、村上敏明(テノール)、デニス・ビシュニャ(バス)の共演が実現しました。 管弦楽は村上マエストロ率いる若き精鋭NEXT管弦楽団、合唱をコーラルファンタジーinひの が奏でます。 美しい音楽が心に響く、特別な時間をお楽しみください。
村上こちらは、特定非営利活動法人 藝術文化の薫るまちinひの 実行委員会という日野の市民合唱団の主催公演で、NEXT管弦楽団、実力派ソリストが共演します。そして7月には、初の主催オペラ公演としてモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」をハクジュホールで上演します。この作品は、歌手たちの力量が試されるだけでなく、演出や音楽的解釈の工夫が大いに求められる作品です。室内楽の伴奏で、コンパクトながらクオリティの高いオペラ公演を目指しています。 そのほかにも、湘南台アートスクエアのストリートピアノを活用したミニコンサートや、子ども向けオペラ公演などを計画中です。これらの企画を通じて、地域の方々や新しい層の観客にもオペラの魅力を届けたいと考えています。
——楽しみなイベントが目白押しですね。村上さんが東京オペラNEXTを運営していく中で、やりがいを感じる瞬間や楽しいと思う場面はどのようなときでしょうか?
村上まだ立ち上げて1年経たないので、活動実績は多くありませんが、それでも人との繋がりを感じる場面が一番のやりがいです。プロの演奏家やアマチュアの奏者、お客様といったさまざまな人々とコミュニケーションを取ることで、少しずつ団体が形作られているのを感じており、それが心を豊かにしてくれるんですよね。 例えば、みんなで一生懸命取り組んだ演奏が、演奏者としての幸せに繋がる瞬間はとても感動的です。昨年の夏休みには、立川でプロとアマチュアが一緒に演奏するコンサート「夏休み音楽祭」を開催しましたが、特に印象深いイベントとなりました。オケにはアマチュアの方々にも加わっていただき、また特別編成されたアマチュアの合唱団の皆さんには第一線で活躍するプロの歌手が指導を行いました。迎えた本番は大成功でした。 コンサート後にアマチュア参加者にアンケートを取ったところ、オケの参加者からは「プロと一緒に隣で演奏できたのは貴重な体験だった」という声を多くいただきました。また、合唱団の方々も「プロから直接指導を受けて本番を迎え、素晴らしい経験だった」と喜んでいただきました。一方、当日リハのみだったので、もっとリハーサルの時間が欲しかったという改善へ向けたフィードバックも届いています。このような取り組みを通じて、アマチュアの方々にも音楽の楽しさや奥深さを感じてもらえるのは本当に嬉しいことです。
——お客様に喜んでもらえたのはもちろん、東京オペラNEXTのメンバーや村上さん自身も手ごたえを感じられたコンサートだったというのは素敵なことですね。一方で、運営していく中で大変だと感じる部分はどんなところでしょうか?
村上やはり課題は山積みです。やりたいことがたくさんあって、それは幸せな悩みではあるのですが、一つ一つを実現するためには地道な作業が必要です。目の前のタスクを確実にこなしながらも、3年後や5年後の計画も立てなければなりません。これまで私は演奏者としての活動に専念してきましたが、今は企画立案や集客、資金調達といった、これまで経験してこなかった分野にも取り組む必要があります。それが大変でもあり、新しい挑戦として楽しみでもあります。 現在運営の中で特に注力している部分はコミュニティを築き、それを濃くしていくことです。団体としての規模を大きくするというよりも、内容を充実させたいと考えています。人との繋がりを深め、そこから新しいアイデアやプロジェクトが生まれることを目指しています。演奏会の質を高めつつ、東京オペラNEXTとしても成長していくために、メンバーと共に試行錯誤を続けています。夢を見ながらも現実と向き合い、バランスを取りながら進めていくのが課題ですね。
——最後に、この記事を通じて読者に伝えたいことをお願いします。
村上オペラというと「難しそう」「敷居が高い」といったイメージを持つ方も多いかもしれません。でも実際には、音楽と物語が融合したとても感動的でエンターテイメント性の高い芸術です。東京オペラNEXTでは、初めてオペラに触れる方でも楽しめる公演を目指しています。 ぜひ、私たちの公演に足を運んでいただき、オペラという素晴らしい世界を体感してみてください。そして、一緒にこの文化を育てていける仲間になっていただけたら嬉しいです。
——村上さんのオペラへの情熱がインタビューを通してひしひしと伝わってきました。今後の活動にも注目させていただきます。本日はありがとうございました!
(インタビュー・構成/松永華佳)
オペラカンパニー
中の人は、アマチュアオーケストラで打楽器をやっています