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「ニューヨーク・スタイル」で日本のオーケストラに新風を吹き込むチェンバー・フィルハーモニック東京

2025/02/27

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チェンバー・フィルハーモニック東京(TCP)はアメリカで学んだ指揮者・木村康人さんが率いるオーケストラ。独特なプログラミング、国際標準を意識した英語用語の採用、演奏者が演奏に専念できる運営体制など、「ニューヨーク・スタイル」を掲げて世界で最もオーケストラの数が多い都市・東京で独自の存在感を発揮し続けている。「ニューヨーク・スタイル」に込められた思いとは?指揮者でアーティスティック・ディレクターの木村さんの視点からTCPの魅力に迫ります。

木村康人(指揮・アーティスティック・ディレクター)
幼少よりピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、作曲を学び、私立東海高校を中退し渡米。ウォルナットヒル芸術高校を経てニューイングランド音楽院別科作曲科卒、ニューヨーク・マネス音楽大学指揮科卒、国際基督教大学大学院比較文化研究科音楽専攻修了(修士論文『セルジュ・クーセヴィツキーの軌跡-二十世紀前半のアメリカ音文化における貢献』)。これまでに指揮を田久保裕一、井崎正浩、ベンジャミン・ザンダー、マイケル・チャリー、サミュエル・ワン、マイケル・ティルソン・トーマス、クラウス・ペーター=フロールの各氏に師事。2010年第5回ゲオルク・ショルティ国際指揮コンクール本戦に招かれフランクフルト放送交響楽団を指揮。2016年第2回アトランティック・コースト国際指揮コンクール(ポルトガル)で日本人最高位のセミファイナリストに選ばれた他、ニューワールド交響楽団、ケベック州オーフォール祝祭管弦楽団、チューリンゲン州立イエナ・フィルハーモニー管弦楽団、コンスタンツァ国立歌劇場管弦楽団、ルーマニア国立放送交響楽団およびロイヤル・チェンバー・オーケストラを含む国内外多数のオーケストラ、歌劇団、バレエ団、合唱団に登壇。2014年梅田芸術劇場主催・小池修一郎演出オーシャンズ11(出演:香取慎吾、観月ありさ、山本耕史ほか)大阪全13公演を指揮、2017年柳家花緑の落語バレエ「新・おさよ」ーバレエ「ジゼル」(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団&東京シティ・バレエ団)の初演を指揮し好評を博す。新国立劇場バレエ副指揮者、国際基督教大学CMS管弦楽団副指揮者、東京トリニティ・コール常任指揮者、チェンバー・フィルハーモニック東京アーティスティック・ディレクターほか現職。

本場で培った「ニューヨーク・スタイル」

——チェンバー・フィルハーモニック東京(TCP)はどのような特長のあるオーケストラですか? ホームページを拝見したところ「ニューヨーク・スタイル」という言葉が気になりました。

木村TCPは2006年創立の室内オーケストラで、アマチュア奏者と音大出身者とがほぼ半々で構成されています。

モットーの「ニューヨーク・スタイル」は、私が学生時代を過ごしたニューヨークでの経験からスタートしています。アメリカでの音楽生活は、特に関わらせていただいたたくさんのプロ、アマチュア、ジュニア、学生オーケストラを通じて、日本との大きな違いに驚きの連続でした。

中でも、演奏以外の業務を団員が全然行わないジュニア・オーケストラでの体験は衝撃的でした。保護者や関係者が会場をセッティングしたり休憩時間のおやつを用意したりする一方で、子どもたちは演奏だけに集中するのです。生徒児童が自分たちで教室を掃除するような文化を持つ日本と比べると賛否両輪さまざまな見方があると思いますが、奏者が演奏に専念できる環境は純粋に魅力的でした。

私としては、何もかも自分たちで準備する日本のアマチュア文化の素晴らしさをあちらで広めようと腐心しましたのですが、それには大変苦労しましたので、アメリカのプレイヤーファーストの特色と日本のアマチュアの良い点を組み合わせたハイブリッドなオーケストラを日本で創りたい、そんな一心で親友たちとTCPを立ち上げました。

——他のオーケストラとはどのような違いがありますか?

木村大きく4つあります。1つ目は、今お話ししたことに通じますが、奏者が極力運営に煩わされることなく、演奏面に集中できるという環境です。会計や広報、制作といった役割はマネジメント・メンバーが担っています。とりわけ、プロのデザイナーが作ってくれた楽団ロゴを含む各種媒体デザインには、設立時から注力しています。フライヤーやブロシュア(公演パンフレット)等の製作物も私が直轄していますが、これも楽団の統一感を生む要素になっているかと思います。

次に、日本のクラシック界で一般的な用語を英語に置き換えている点です。例えば「ファゴット」は「バスーン」、「GP(ゲーペー)」は「ジェネラル・リハーサル」、「プルト」は「デスク」または「スタンド」、「プログラム」ではなく「ブロシュア(パンフレット)」、合わせのことも「練習」ではなく「リハーサル」と呼び、さらに楽曲の表題等もなるだけ原語に忠実に…例えばメンデルスゾーンの交響曲は「スコットランド」や「イタリア」ではなく「スコティッシュ」「イタリアン」です。

実のところ、ドイツ語は非ドイツ語圏のオケでは滅多に使われませんし、世界的にはリハーサルの言語は英語が主流ですので、あえて英語の用語を用いるようにしています。団員が今後世界的な舞台に立ったときに少しでも英語に抵抗なく臨んでくれたら、という願いも込めています。

ステージ・マナーも特色の一つです。日本では、ほとんどといって良いほどドイツ流の作法を踏襲しています。演奏者の整列入場はその最たる例です。しかし、アメリカのオーケストラは基本的に奏者板付きで始まり、奏者は照明が落ちるまでステージ上で音出しをしながら開演を待ちます。これは実は理にかなっていて、特に日常的に本番のホールでリハーサルができない多くの団体にとって、会場のコンディションをチェックする上でも意義深いといえます。

また、開演前の影アナも余程のことがない限り行いません。開演前のステージ上での音出しに多くの日本人の聴衆が違和感を覚えるのと同じくらい、海外の方々は(人々の会話は極めて静かなのに)アナウンスや電子音が延々と流れる日本の都市空間を不思議に感じるといいます。

アメリカでは、開演のアナウンスやベルの代わりにホワイエやトイレの照明をチカチカさせることもよくあります。TCPではベルおよび照明の上げ下げを開演の合図とし、諸注意は印刷物等で視覚的に対応しています。これはニューヨーク・フィルの方式を踏襲しています。

4つ目は、シーズン制を導入していることです。海外の音楽団体のように、夏は音楽祭を除いて原則お休み!歴史的にオーケストラの楽器や演奏者のフォーマルな衣装はアジアの高温多湿の気候を想定していないので、特に真夏は環境的に楽器や奏者に最適な季節とはいえません。また、夏期の演奏会をお休みにすることで、活動にメリハリがつくのではないかと考えています。

——お客さんや団員の皆さんの反応はいかがでしょうか。

木村最初の頃はアンケートに「奏者が本番前にステージ上で練習するのはよろしくない」というお言葉をいただくこともよくありましたが、めげずに19年続けてきたら皆さん諦めてくれたというか(笑)結構慣れてくださったようです。

カラードレスなどの衣装についても、当初は「目がチカチカして気が散る」「演奏家は黒を着るべき」といったご批判をたくさん頂戴しましたが、今ではおかげさまで好意的なご意見ばかりです。この頃は日本でもカラフルな衣装をお召しになる団体が増えてきましたしね。日本でもオペラやバレエなら本番前にオケがピットのなかでさらっているのは普通なことですから、結局こういうことは慣れの問題なのだと実感しています。

お客様からも団員からも、最初は「アメリカかぶれ」なんて言われましたし、今でも思っている人はいるでしょう(笑)。もちろん、ここは日本ですから。とはいえ、やっぱりオーケストラは欧米由来の文化ですので、世界最多のオーケストラを擁する大都市東京に、一つぐらいニューヨークナイズされた楽団があってもいいのではないでしょうか。

プロオケへの架け橋&ハイアマチュアの活躍の場として

——団員の構成が音大出身者とアマチュアが半々とのことですが、こういった構成にされている理由を教えてください。

木村東京にはプロアマ含めて世界最数のオーケストラがしのぎを削っていますので、音大生や音大卒業生がエキストラとしてプロのオーケストラに呼ばれることは日常茶飯事です。でも、首席などの主要奏者として演奏に参加できる音楽家は一握りです。TCPが、プロオケ入団というという目標を持つ方々の登竜門のような場所になれたらとも思っています。

その甲斐あってか、NHK交響楽団、東京都交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、群馬交響楽団、山形交響楽団、兵庫芸術文化センター管弦楽団などの正団員になったTCP経験者が何人もいらっしゃいます。ご本人の努力が全てであることは言うまでもありませんが、そういう方々が乗ってくださっている楽団なので、プロオケとアマオケの中間的なのニッチな位置付けになってきているのではないかと思っています。

また、日本には非常にレベルの高いハイアマチュアの音楽家がたくさんいらっしゃいます。一般的なアマオケは数カ月間にわたってリハーサルを重ねるので、そこまでの時間は割けないけれど、数回のリハーサルで本番を迎えるTCPになら参加しやすいという方にも機会を提供できていると思います。

ラモーからアイヴズまで 演奏プログラムのこだわり

——バロックの作曲家ラモーからモーツァルト、ドヴォルザーク、リヒャルト・シュトラウス、アイヴズといった作曲家まで、幅広い曲目や編成の作品を取り上げたり、古楽器や時代奏法を採り入れたHIP(historically informed performance)にも積極的に取り組まれていますね。

木村演目については、団員の意見や希望を聞きつつも、全曲アーティスティック・ディレクターが決めています。これもニューヨーク・スタイルの一環ですね。あらゆる時代、国、作曲家の作品を採り上げたいと思っていて、団員たちにとってもそれが刺激になっているのではないかと思っています。

ただし、そうなると管打楽器を中心に出番が限られるパートも出てきます。不公平感を生まないように、またレパートリーを限定しないために、これらのパートについては団員をおかず、必要に応じてゲスト・プレイヤーをお招きしています。

——5月11日には本拠地の三鷹市芸術文化センター 風のホールで第37回演奏会が開催されますね。

木村はい、おかげさまで定期公演も37回を数えることになりました。この「37」という数字はエマープ素数と呼ばれる特別な素数で、3も、7も、ひっくり返した73も素数、さらに3桁のゾロ目(111、222、333 etc.)は全て37の倍数という、私の大好きな不思議な数字なんですよね。そこで今回は、全て「37」にちなんだ楽曲を選んでみました。

モーツァルトのピアノ協奏曲第1番 K.37および交響曲第37番、ハイドンの交響曲第37番、そしてベートーヴェンピアノ協奏曲第3番 op.37です。特にモーツァルトの37番は第1楽章の序奏以外はハイドンの弟の作曲であるため、演奏機会が極めて少ない言わば幻の交響曲です。なお、2つの協奏曲のソロイストにお招きするのは、久しぶりの共演となる赤松林太郎さんです。ぜひ聴きにいらしていただきたいです。

来シーズン以降の構想も膨らんできています。引き続き、TCPのオリジナリティーを出せるような意欲的なプログラムに挑戦し続けていきたいと思います。現時点で楽団員と運営メンバーを若干名募集していますので、ご興味のある方がいらっしゃいましたら、詳細についてウェブサイトかSNS経由でメッセージをいただけたら嬉しいです。

チェンバー・フィルハーモニック東京 第37回演奏会《THE 37TH》

日時:2025年5月11日(日) 14:00開演

場所:三鷹市芸術文化センター 風のホール(東京都)

詳細 : http://tokyochamberphil.org/concert-37/


  • F.J.ハイドン:交響曲第37番ハ長調
  • W.A.モーツァルト:ピアノ協奏曲第1番ヘ長調 K.37
  • W.A.モーツァルト/M.ハイドン:交響曲第37番ト長調 K.444(K.425a/Anh.A53)
  • ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調 op.37

指揮:木村康人
コンサートマスター:平山慎一郎
ピアノ:赤松林太郎

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チェンバー・フィルハーモニック東京

NYスタイルの新しい室内オケ

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中の人は、アマチュアオーケストラで打楽器をやっています