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2025/03/05
「音楽で粋なひと時を愉しむ」をモットーに活動を続けるEnsembleたのシック。2001年の設立以来、クラシック音楽をより身近に感じられる場を創り続けてきました。チェロのたのうち惠美さんと、ご主人でギタリストの篠原正志さん、お二人での曲間の話だけでなくお客様との対話を大切にした温かな演奏会は、多くの方々から支持を集めています。 トーク付きサロンコンサート歴25年、ランチコンサート歴は18年を超すEnsembleたのシックが、本年6月から資生堂パーラー銀座本店で新シリーズ『Concert for you』を始動。コンサート前のティータイムや気さくな音楽談義など、少し特別な音楽の楽しみ方を提案します。 今回は、『Concert for you』に込めた思いや、長年の活動を通じて培ってきた音楽との向き合い方について、主宰のたのうち惠美さんにお話を伺いました。
——2025年より、『Concert for you』という新しいコンサートシリーズを始められる背景について教えてください。
たのうちこれまで25年以上、トーク付きのサロンコンサートを続けてきましたが、今回は新たな挑戦として、演奏は選りすぐりの演奏家の方々にお願いし、私自身はナビゲーターに徹することにしました。近年はクラシックコンサートでもトーク付きが当たり前となってきましたが、ご来場いただいた皆様の疑問やお気持ちに、その場でお答えできるような場を作りたいと考えたんです。
——このコンサートの特徴的な点として、コンサート前にティータイムを設けていらっしゃいますね。
たのうち従来ライブハウスでは開場時間が早く、演奏が始まる前にお客様が自分の席で食事を楽しめるのですが、クラシックコンサートでもそんな雰囲気でできたらと思い、この形式を取っています。開演前の時間を存分にゆっくり過ごしていただくのも良いですし、ご希望があれば音楽談義をさせていただくこともできます。 音楽も食事も、それぞれ単体で充分素晴らしいものですが、組み合わさることで相乗効果が生まれるのではないかと思っています。「1足す1が3以上になる」くらいの魅力を感じていただけるように努めたいと考えています。
——コンサート前にナビゲーターと音楽談義という新しい試みと共に、会場として資生堂パーラーを選ばれたことも気になったのですが、この会場を選ばれた理由をお聞かせください。
たのうちまず、音響の面で素晴らしい空間なんです。天井が高く、自然光も入る開放的な会場で、生演奏にとても適しています。以前、コロナ禍に文化庁から助成をいただいて公演を開きましたが、その際もお客様から「響きがいいですね」という声をたくさんいただきました。 また、お客様をお迎えする場としての、店舗スタッフの皆さんのホスピタリティも素晴らしく、一つ一つの所作に込められた心配りなど、銀座ならではのおもてなしの精神も、資生堂パーラーを選んだ理由の一つです。入口から特別な空間に足を踏み入れる、そんなワクワク感も味わっていただけると思います。
——特別な空間づくりにかなりこだわられているのですね。資生堂パーラーといえば、伝統ある洋菓子やドリンクも魅力ですね。たのうちさんおすすめのメニューはありますか。
たのうち実は私が特に好きなのが、クリームソーダなんです。子どもの頃、ショーウィンドウやメニューのクリームソーダに目を奪われた記憶のある方も少なくないのではないでしょうか。クリームソーダには不思議な魅力があります。ソーダに浮かぶアイスクリーム、グラスの輝き、立ち上る微かな泡——少し懐かしさを感じる「おやつ」でありながら、パーラーならではの味わいにはどこか大人の優雅さも感じられる一品です。 記憶と音楽の関係は、年齢を重ねるごとに深くなっていくものだと感じています。「昭和レトロ」が人気の今、このクリームソーダを楽しみながら過ごすひとときが、コンサート前の心の準備を自然と整えてくれるのではないかと思うんです。平成生まれの方にも、新しい思い出の一つとして残していただければ嬉しいですね。
——大人になってから楽しむクリームソーダ、なんだか贅沢で素敵ですね。コンサートには、どのようなお客様に来ていただきたいとお考えでしょうか。
たのうち音楽を愛する方はもちろん、「クラシックはよく知らない」という方にも足を運んでいただきたいと思っています。最近、私自身が同窓会などで旧友と集まる機会が増え、クラシック音楽は予想外に人気があり、「好みに合わなそうだと思うのは私の決めつけであった!」と実感しています。 そこで今回は、クラシック音楽が好きな方が、普段クラシックに馴染みのない友人を誘いやすい場にしたいという思いも込めて、6名様(1テーブル)でご予約いただくと、割引となるプランを設けています。銀座で友人とお茶するような、そんな感覚でクラシック音楽に触れていただければと思っています。 ちなみに、「6人」は幹事さんがいないとなかなか集まらない人数なので、幹事さんにはスペシャルプレゼント付きです!
——バイオリンの物集女純子さんとギターの河野智美さん、お二人について詳しくお聞かせいただけますか。
たのうち物集女さんは自身のオーケストラを率いたり、ソロや室内楽に奔走しながら、音大で教鞭も執られる多才な方です。とても忙しいはずなのですが、演奏が始まると、聴く人を音楽の世界へと自然に引き込んでくれるだけでなく、その時々に「何か」を聴き手に残してくれる、そんな魅力的な演奏家です。 河野さんは、凛とした佇まいも素敵な上、表情豊かに音色を使い分け、クラシックギターならではの魅力を余すところなく聴かせてくれる方です。プロフィールを読むだけでもわくわくするほど、幅広い活動をされています。 お二人に共通しているのは、音楽と向き合う姿勢も、音楽そのものも、とても誠実で丁寧なことです。そういった真摯さが、芯のある華やかさに繋がっているのだと感じています。クラシック音楽の本質を大切にしながらも、力強さも繊細さも兼ね備えて、存分に音で物語ってくれるお二人の共演を、ぜひたくさんの方にお聴きいただきたいです。
——お二人とも芯のある素敵な音楽家なんですね。たのうちさんは『Concert for you』では、演奏家ではなくナビゲーターというお立場ですが、どのような音楽体験を提供したいとお考えですか。
たのうち今回私がナビゲーターに徹することにした理由は、お客様一人ひとりともっと丁寧にコミュニケーションを取りたいと考えたからです。 クラシックについて「よくわからない」と謙遜される方も多いかもしれません。でも今は音楽をジャンル分けする必要のない時代になりましたので、自由に楽しんでいただければ幸いです。 とはいえ、「今さら聞くのも憚られる…」という疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。そこで、このシリーズでは壇上からお話しするのではなく、お客様のお席に直接伺って、少人数でお話させていただく形を考えています。 時々見かけるけれど意味のわからない音楽用語はもちろん、「調号ってなんですか?」といった基本的な質問から、曲の背景や時代背景、作曲者の傾向などへの深い考察まで、互いに気軽に話し合える場にしたいと思っています。 また、公式LINEでは演奏会の前後にも質問をお受けしていますので、ぜひご活用ください。 それぞれの方が、ご自身なりの音楽の楽しみ方を見つけていただける——そんなお手伝いができればと なによりです。
——長年サロンコンサートを続けられてきた中で、印象に残っているエピソードはありますか?
たのうち印象深いことだらけですが、2008年から続けている『バルブのランチコンサート』の立ち上げが特に思い出深いです。引越し先の区民文化センターの館長さんからレストランのオーナーを紹介していただいて、最初は本当に手探りでした。 しかし、何の実績もない私の提案に、オーナーが「いいじゃないですか、やりましょう!」と二つ返事で賛同してくださったんです。今でも、こちらからはお願いできないようなことをご提案くださるので助かっています。 8月以外の第3火曜と定めて開催を重ね、もうすぐ180回を超えようとしていますが、この間には災害もコロナもあり、順調なことばかりではありませんでした。でも、「私がやるという限りはやる」と言って励ましてくださったオーナーはじめ、レストランのスタッフの皆さんには本当に感謝しています。 初めてご来場くださる方も、常連のお客様も、食事を共にすることで自然と会話が弾み、お一人で参加されても隣席の方達とおしゃべりを楽しんでくださっています。音楽を通じた素敵な交流が生まれている様子に、励まされることも少なくありません。 また、震災前まで「バギーのままで入れる小さな音楽会」という、お子さんと一緒に楽しんでもらえるコンサートを開催しておりました。「たのシック」の初期を支えてくださった区民文化センターの館長はじめ、私のアイディアをを実現させようと大工仕事までしてくれたホールスタッフさん達——皆様のおかげで、お子さん達にも集中して聴いてもらうことができていたと思います。 またある時は私の苗字が縁で声を掛けられ、それから毎年の演奏、近年では+αまで楽しいことをご一緒させてもらっている、地域高齢者向け企画をされているNPOさんもあります。その会では、15人を超える運営スタッフさん達とコンサート後に一緒に食事を戴きます。 そんな経験からも、音楽と食事の組み合わせには特別な魅力があると実感しています。 これまでの経験を活かしながらも、常に新しい試みにチャレンジすることで、より多くの方に音楽を楽しんでいただける場を作っていきたいと思っています。
——これまでに様々な企画をされてきた中で、特に印象に残っている公演についても教えてください。
たのうちクラシック音楽の親しみやすい楽しみ方を提案したいという思いから、これまでにいくつもの挑戦をしてきました。 例えば「落語で観るオペレッタ」では、落語家の方に台本をお願いして、音楽と話芸を融合させる試みを行いました。また「弦楽四重奏で紐解くモーツァルト」では、「古典」とも呼ばれる枠の中や外でどんな遊びや試みがなされているかを、作曲家の人となりを交えながら紐解いていくような企画も手がけました。 そして、毎回心に残るのは、高齢者施設への出張コンサートですね。演奏仲間が仲介してくれているのですが、お集まりの皆様の若かりし頃の思い出の曲を想像しながらプログラムを組み立てています。 クラシックは少なめに、懐かしい童謡、昭和歌謡にタンゴやシャンソン、映画音楽まで、できるだけどなたにでも何か1曲は思い出にリンクする曲がありますようにと願いを込めてお届けしているんです。演奏後に「若い頃を思い出した」「懐かしい気持ちになった」と涙ぐまれる方もいらして、音楽の持つ力を改めて実感させられます。 こうした経験の一つひとつに導かれて、今回、『Concert for you』を始めることとなりました。たのシックとしての四半世紀の活動を含め、私は35年、主人は50年を超える音楽活動となりますが、それらを通じて学んできたことのすべてを、この新しいシリーズに注ぎ込んでいきたいと思っています。
——最後に、『Concert for you』に込められた思いと、今後の展望をお聞かせください。
たのうちクラシック音楽を、より多くの方に親しんでいただきたい、そんな想いから『Concert for you』というタイトルを掲げました。音楽は決して特別なものではなく、聴いてくださる皆様お一人お一人のためにある――そんな本来の姿をお伝えしたいと考えています。 演奏、特にステージでの演奏というものは、聴き手がいて初めて成立するものです。私たち演奏家は、作曲者の想いを聴衆の皆様に届ける、いわば「橋渡し役」といえます。もちろん、それには演奏家としての技術が不可欠で、今回も素晴らしいお二人にご出演いただいていますが、常に「あなたのために」という気持ちで演奏させていただいています。そして私たち演奏者自身も、お客様との出会いを通じて、新たな音楽の発見を重ねています。 クラシック音楽は長い歴史の中で「芸術」として高い価値を築いてきました。特に20世紀には政治的な影響もあり、一般の方々にとって敷居の高いものになってしまった面があります。その伝統は大切にしつつも、より親しみやすい形でお届けしたいという気持ちを『Concert for you』というタイトルに込めています。 また、この企画を通じて、世代を超えた音楽の輪も広げていければと考えています。例えば、若い方々には、ご両親やおじい様、おばあ様が若かりし頃に親しんだ音楽に興味を持っていただくきっかけになるかもしれません。逆に、シニア世代の方々にも、新しい音楽との出会いを楽しんでいただける。そんな世代間の架け橋にもなれたら嬉しいですね。 ご予約・お問い合わせは公式LINEをメインに承っております。メッセージの一斉送信は無く、個人チャットのみの利用ですので、どうぞお気軽にご登録ください。些細な質問でも、音楽についての疑問であれば、なんでもお答えさせていただきます。皆様とお会いできることを、心より楽しみにしています。
——本日はたくさんお話をお聞かせいただきありがとうございました!
(インタビュー・構成/松永華佳)
演奏家団体
中の人は、アマチュアオーケストラで打楽器をやっています