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2025/03/06
「まるで私たちの姿を見ているよう」――。姉妹で奏でる音楽の喜びと苦悩、そして深い絆。坂本彩・リサ姉妹は映画『デュオ 1/2のピアニスト』に自身の人生を重ね合わせ、強く心を揺さぶられたと語ります。 2021年、最難関として知られるARDミュンヘン国際音楽コンクールピアノデュオ部門において日本人デュオとして初の第3位入賞を果たすなど、国内外で高い評価を受ける坂本姉妹。姉の彩さんは4歳、妹のリサさんは3歳でピアノを始め、その2年後には姉妹でのピアノデュオをスタート。以来、二人三脚で音楽の道を歩んできました。 実在の双子ピアニスト、プレネ姉妹の数奇な運命を描いた本作。難病を乗り越え、互いを支え合いながら新たな演奏法を確立していく姿に、坂本姉妹は自身の経験と重ね合わせながら深い共感を覚えたのだとか。 今回、コンサートスクウェアでは、クラシック音楽への情熱を貫く姉妹ピアニストならではの視点から、本作の魅力や、自身の音楽活動について語っていただきました。
双子のピアニスト姉妹クレールとジャンヌ。幼い頃からピアノに打ち込んできた2人は名門カールスルーエ音楽院に入学し、クレールがソリストとして選ばれるなど、着実にその才能を開花させていた。しかしコンサートのオーディションに向けて厳しい練習に励む最中、2人は手の骨が折れやすくなる難病を発症。医師からは「ピアノを再び弾けるようになる確率は1%」と宣告される。 しかし姉妹は諦めることなく、お互いが奏でるピアノの音を補い合いながら2人で1曲を完成させるという、唯一無二の演奏方法を生み出した。関節をしなやかに柔らかく動かすことで手の骨を守りながら演奏する新しい奏法を編み出した2人は、不可能と思われた夢を現実のものとし、プロのピアニストとしての道を切り開いていった。 本作は、実在のプレネ姉妹をモデルに、挫折を乗り越え、音楽への情熱を貫いた双子のピアニストの感動の物語を描いている。困難に直面しながらも、互いを支え合い、新たな可能性を見出していく姿を、珠玉のクラシック音楽とともに映し出している。
——お二人は『デュオ 1/2のピアニスト』のクレールとジャンヌのように姉妹で音楽活動をされていますが、本作をご覧になって、特に共感された部分についてお聞かせください。
リサ映画の主人公は双子ですが、私たち姉妹と似ているところが数多くありました。 例えば、映画の冒頭で、コンクールに出場した後に家族で車に乗って帰るシーンがありましたが、まさに私たちの子供時代そのものでした。両親が送り迎えをしてくれて、後部座席で「今日は2位で悔しかったね。また頑張ろう」と話したことを思い出しました。 私たちも小さい頃から2人で支え合い、切磋琢磨しつつも楽しみながらピアノを続けてきました。ドイツへの留学など、大変なこともありましたが、2人一緒だったから頑張れたという点にとても共感できました。映画を見終わった後に、2人で共感した部分を言い始めたら止まらなくなってしまったほどです(笑)。
彩家族との関係性という意味でも、私たち家族に通じる部分が多くありました。ただ、作中のお父様とは違って、私たちの両親は決して厳しい人ではなく、いつも温かく見守ってくれています。今でも遠方の演奏会にも足を運んでくれるほど、私たちの音楽活動を支え続けてくれているんです。 両親は私たち姉妹の音楽活動を、生まれた時から今に至るまで、家族の中心に据えて支え続けてくれています。2人の全てというと過言かもしれませんが、両親が人生の大きな部分を私たちのために費やしてくれているのは間違いありません。そのことを考えると、申し訳なさと同時に大きな責任も感じます。 そのため、映画の中でお母様が取った行動や、ご両親が娘たちの人生に寄り添う姿を見て、胸が熱くなりました。私たちの両親もこんなふうに多くのものを捧げてくれているのだと、そんな思いが心に深く染み入ってきて、思わず涙が出そうになりました。
——作中のクレールとジャンヌに自分たちを投影するかのように深く共感されたのですね。作品の中で2人が喧嘩をしたり、仲違いをするようなシーンもありましたが、お二人は互いに嫉妬したり、相手の活躍を羨んだりした経験はございましたか。
彩我々は双子ではないため、年齢が離れている点はクレールとジャンヌと異なりますが、同じコンクールに出場して、一方がうまくいって、もう一方がうまくいかないということは本当にたくさんありました。受験の時期なども同様です。そんな時は、素直に相手の成功を喜べないこともありましたね。 祝福したい気持ちはあるのに、自分の悔しさが勝ってしまって、コンクール会場からの帰り道で、ずっと泣いていたこともありました。 でも、そういった経験を重ねる中で、むしろ2人でやっているからこそ励まし合い、切磋琢磨できた部分の方が大きかったように思います。お互いを高め合える関係性があったからこそ、ここまで続けてこられたのだと思います。
——そうした経験を経て、より強い絆が育まれていったのですね。では、姉妹で音楽活動を続けていく中での良い点についてもお聞かせください。
リサ最大の利点は、小さい頃からずっと共に過ごしてきたので、お互いの考えていることが言葉にしなくても分かるという点ですかね。喜びも悲しみも、全てを共有できる関係です。 面白いのが、デュオの時に意識して合わせようとしなくても自然とシンクロしてしまうんです。他の演奏家との共演では一生懸命呼吸を合わせることから始めますが、私たち姉妹の場合は意図せずともピッタリ合ってしまう。それは姉妹ならではの特権かもしれません。 両親は音楽を聴くのは好きですが専門的な知識はないので、技術的な相談ができる相手が妹以外にいないんです。学生時代も、お互いの練習室に行き来して「ここがうまくいかないんだけど、どうしたらいい?」と相談し合ったり。最も信頼できる相談相手であり良き理解者という関係ですね。
——まさに映画の中のクレールとジャンヌそのもののようなエピソードですね!その反面、ご家族で活動を続けていく上で難しい点やデメリットはありますか。
彩デメリットを考えようとしても、実はあまり思い当たらないんです。ただ、家族だからこそ遠慮がなくなってしまうというのはありますね。 練習の時も妥協したくないので、「もっとこうして」「ここはこうしたい」と遠慮なく言い合ってしまいます。家族だからこそ仕事とプライベートの境目も曖昧になりがちで、お互いに干渉しすぎてしまうことはありますね。
リサ音楽的な問題は2人で話し合って解決できますが、人間関係での衝突があった時は、両親が間に入ってクッションになってくれています。そういう意味では、家族の支えがあってこその関係性なのかもしれません。
——音楽家としての絆を深める上でも、ご家族の存在は大きいのですね。本作では連弾と2台ピアノという2つの演奏スタイルが印象的でしたが、実際に演奏される立場から、それぞれの特徴や違いについて教えていただけますか。
彩連弾は1台のピアノの前に2人で座って演奏するので、物理的な制約が大きいんです。その不自由さの中でいかに自分たちの理想とする音を出せるか、いつも試行錯誤を重ねています。2人の音楽性を1台のピアノに詰め込んでいくような感覚ですね。 対して2台ピアノは距離があるので、むしろその距離感をどう埋めていくかが課題になります。私たちも以前より2台の音のバランスは取れるようになってきましたが、客観的に聴くことの難しさは常にあります。 2台ピアノの場合、ピアノとピアノの間に生まれる空間を感じながら、そこに音楽を集めていくような感覚があります。2人の音が1つになる瞬間を探りながら演奏しているんです。
——呼吸を合わせるコツのようなものはあるのでしょうか。
彩アイコンタクトと息遣い、そして耳で感じ取ることが大切です。自分の音より相手の音を聴くことを意識していますね。相手の音に溶け込んでいくような感覚で演奏しています。
リサ実は、私が本番で急にインスピレーションを得て演奏を変化させることもあるんです。でも姉はそれをすぐに察知して、ぴったりと合わせてくれる。その安心感があるからこそ、自由な表現ができるように思います。 単に合わせることだけを考えるのではなく、お互いが自由に表現できる中でシンクロしていく、そんなバランスを目指しています。普段から互いの調子や気持ちの変化も自然と感じ取れるのですが、これは姉妹だからこそできることかもしれません。
——実際の姉妹デュオならではのエピソードで、大変興味深かったです。せっかくなので、読者の方にお二人の個性についても知っていただきたくて、それぞれの強みや演奏スタイルの違いについて教えていただけますか。
リサ簡単に言うと、私が感覚派で、姉が理論派です。
彩普段の性格もそうなのですが、演奏スタイルにもそれが表れています。妹は感情をすぐに表現に反映させるタイプで、私の方は感情を内に秘めながら、じっくりと音楽を紡いでいくタイプですね。
リサ私はどちらかというと外向きな表現が多いのに対して、姉は内面的な演奏をする。聴いていると心の深いところに入ってくるような、そんな演奏をするんです。
彩デュオになると、その違いが逆に活きてくるんです。特に連弾の時は、妹の表現力の豊かさがとても魅力的で、私はそれを支えながら音楽を運んでいく役割を担うことが多いですね。性格が真逆だからこそ、お互いの良さを引き出せているのかもしれません。
リサ姉の芯のある演奏があってこそ、私も安心して表現できています。長所と短所がそれぞれ違うからこそ、特に連弾では本当にぴったりとはまる感じがするんです。
彩妹は普段の性格から喜怒哀楽が激しいんですが、表現力が昔から素晴らしくて、私もずっと刺激を受けてきました。お互いの個性を認め合い、それを活かせる関係性が築けていることは、とても幸せなことだと感じています。
——本作の場合は、姉のクレールが外向き、妹のジャンヌが内向きなので、坂本姉妹の場合は逆なんですね。最後に、コンサートスクウェアの読者の方に向けて、改めて本作品の魅力をお伝えいただけますか。
彩クレールとジャンヌを取り囲む周りの人たちが2人の人生と共に変化していく姿、家族の愛といった、様々な想いや愛が詰まった作品だと感じています。 本作を鑑賞した際、姉妹が音楽への愛を見失いかけた時に、試練を乗り越えて、もう一度その想いを心の中に見つけていく過程が、とても印象的でした。そして、クラシック音楽も魅力的な形で描かれていて、音楽に向き合う人ならではの気持ちや関係性を、映画を通して深く知っていただけたら嬉しいです。
リサこの映画は、今まさに悩みを抱えている方に、きっと希望を与えてくれる作品だと思います。人生には様々な困難があって、大きなことも小さなことも含めて、誰しも悩む時期があります。そんな時は先が見えない真っ暗な状態になりがちですが、その悩みを通じて新しい可能性が開けることもある。映画の中の姉妹も、困難を乗り越えて新しい演奏スタイルを見つけ、新たなステージへと進んでいきます。 私たちも一時期、音楽の道で大きな壁にぶつかったことがありました。でも、2人で助け合って乗り越えることで、かえって絆が深まったんです。この作品は、決して諦めないことの大切さと、そこから生まれる希望を、優しく、でも力強く描いていると感じています。
——特に印象に残っているシーンはありますか?
彩本当にたくさんありすぎてどれを選べばいいやら…(笑)。特に留学中のシーンは、私たち自身の経験と重なって印象深かったです。新しい環境で戸惑いながらも、そこで何かを乗り越えて、第2の人生がスタートするような、そんな瞬間に、胸が熱くなりました。
リサ楽譜を窓から投げ捨てるシーンは、第2の人生がスタートしたようで、ぐっと来ました。映画の中で登場人物たちが直面したような大きな問題に遭遇したら、私たちも音楽をやめてしまうような状況になっていたかもしれません。でも主人公たちは、そこから前向きな気持ちを取り戻し、もう一度音楽と向き合おうという強い意志を見せました。自分たちがその立場だったら、そんな気持ちになれただろうかと考えさせられ、尊敬の念を抱きました。
——お二人ならではの映画の感想や魅力がたくさん伝わってきました。今日は貴重なお話をありがとうございました!
(インタビュー・構成/松永華佳)
■作品名: 『デュオ 1/2 のピアニスト』(原題:Prodigieuses/英題:Prodigies)
■公開日:絶賛公開中
■監督:フレデリック・ポティエ&ヴァランタン・ポティエ 『216mois』で 2014 SXSW 審査員大賞ノミネート(短編部門)
■脚本:フレデリック・ポティエ、ヴァランタン・ポティエ、サビーヌ・ダバディ
■製作:フィリップ・ルスレ『コーダ あいのうた』『エール!』『ふたりのマエストロ』
■撮影監督:ダニー・エルセン『人生は狂詩曲ラプソディ』
■音楽:ダン・レヴィ『VESPER/ヴェスパー』
■コンポーザー:ダン・レヴィ『失くした体』
■音響:マルク・ドワーヌ『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』
■出演:カミーユ・ラザ、メラニー・ロベール、フランク・デュボスク、イザベル・カレ、エリザ・ダウティほか
■提供:フラッグ/シンカ 配給:シンカ/フラッグ
■HP:https://www.flag-pictures.co.jp/duo-pianist/
■X:@duo_pianist0228(https://x.com/duo_pianist0228)
■Instagram:@duo_pianist0228(https://www.instagram.com/duo_pianist0228/) #映画デュオ #デュオ 2 分の 1 のピアニスト
■コピーライト:© 2024 / JERICO - ONE WORLD FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 3 CINEMA 2024 | フランス | 109 分 | カラー | ビスタ|DCP | 5.1ch | 字幕翻訳 星加久実 |G
■本予告映像:https://youtu.be/n4p0wS_WcCA
中の人は、アマチュアオーケストラで打楽器をやっています